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【インタビュー】2014.8.1 奈良女子大学 社会連携センター 特任准教授 医学博士・技術経営修士 梅田 智広 先生
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●柏の葉総合歯科に導入いただいた目的をお聞かせください。

まず歯科医院に来る患者さんは施術中の音が嫌いという方が多くて、課題として、その音をどうすればいいんだろうかという常々悩みがありました。 我々が利用する歯科用の検査器具は、回転ドリルを回して歯を削る施術をするものですから、論理上音をなくすということには無理があるんですね。 どうしても耳元に近いところでこの音が鳴り聞こえてしまうのですが、患者さんが座っている間中、ずっと削っているわけではないのです。検査器具を使用している時間は、どうしようもないのですが、それ以外の時間に、血圧を含め患者さんのテンションがすっと自然に戻るような、そんな環境が作れないかと考えていました。今回、柏の葉総合歯科を設計するにあたり、患者さんが座るユニット(椅子)がある空間(キュア・ブース)の環境の在り方を、患者さんの立場を念頭に設計していきました。その中には広さというものもあれば、壁紙の色から始まって視覚的なもの、聴覚的なものなど、五感に訴える空間を意識していました。考えていくうちに、KooNeの存在を知り、空間設計における「耳」「聴覚」の部分に関して、KooNeの立体的な音作りを実現している間接音響と自然音で、目を閉じれば歯科診療所の椅子に座っていることを忘れてしまうような空間ができるのではないかと思い、また期待をこめて、今回KooNeを導入することにしました。

●最初にKooNeを体感されたときのどのようにお感じになりましたか。

音が鳴っていることの印象よりも、むしろKooNeの音響を消した時の無音の状態との差を経験させてもらったんですけれども、音がしないことの圧、プレッシャーというのがあるなとつくづく思いました。返せば、それだけ自然な音が流れていたんだと言うことができるのではないかと。 こういった体感から今回考える五感に訴える空間設計の診療所に合うのではないかと思いました。

更にいえば、患者さんは、嫌な音として削られる音と、その嫌な体験を記憶の中にいれてしまっているので、再度診療所に行くことに対して、フラッシュバックがおこりやすい状態になっていると言えると思います。毎回キーンという音を思い起こすというか。“あー、歯医者さんって、あのキーンという音がする嫌な所だよね”と思われがちです。そんな風に思う患者さんの状況に対して、理想的には、キーンという音を思い出して“歯医者に行きたくないな”と思ってもらうのではなくて、KooNeの自然音によって“あ〜、気持ちいい空間だったよね”というように思ってくれることを期待してKooNeをいれています。

まだ設立したばかりで、多くのスタッフや患者さんはこのKooNeを体感してはいないので、その自然音の有無に関して大きな違いにまだ気づいてないように思います。現時点で、一番いろいろ感じているのは私だと思います。実は、この柏の葉総合歯科設立以前にも20年間、自分の診療所があったわけですが、その歯科診療所には大きな窓がありいつも外を見て、あるいは外を感じながら室内空間に1日8時間〜10時間いたんです。ところが、今回の新しい施設は、窓の無い空間で、外の状況がわからないオープンでない空間で、かつ今日は暑いのか寒いのかさっぱりわからない、外が雨なのかもわからないという状況の中で治療にあたることになります。この状況は以前に比べて自分がもっともっとストレスを感じるのかなと思っていたのですが、患者さんがうがいをしている時とか、患者さんの導入と退室の時などちょっとした瞬間に、KooNeによる鳥の鳴き声が聞こえてくることで、自分が外にいるような疑似体験ができるというか、自分の中で鳥=室外という記憶がフラッシュバックで出てきますから、そういう感覚がいろいろなストレスを軽減してくれているように感じています。

●KooNeをより良く活用するために、どのようなことを期待されますか。

KooNeが作り上げる音響空間の気持良さを作り上げているもの要因のひとつは、今ここで実際流れている音自体というよりも、個人個人に小鳥の鳴き声に対して快の体験があれば、その個人の快体験を思い起こして、いい雰囲気だと感じてもらえるということなのではないかと思っています。 今回KooNeにおいて水の音(川のせせらぎ音)も提供して流しているのですが、これについても小鳥の鳴き声と同じように快の体験を多くの方がされているか気になるところではあります。 自分の子供の頃に自然環境にいた経験やあるいはどこかの環境で自然環境に出会ったことがあるといった思い出が、フラッシュバックとして心地良い思いに変換されているのではないかと思うのです。 そういった観点から、万人受けするような、快の体験、気持ちいい、心地いいという体験と結びつく音を今後も収録して提供してほしいと思います。

●医療機関とKooNeの相乗性などについて、お考えがあれば教えてください。

長期的なところでは、隣接する柏の葉内科・循環器クリニックの先生と一緒に、我々がいうところの自律神経や血圧とか、一般的にはテンションといわれる部分が、診療中にどういう風にKooNeが設置されたような空間で軽減されていくのかを基本的には研究対象にしていきたいと考えています。 内科の先生が、自律神経の落ち着いているという状態とはどういう状態なのかというのを研究・調べてきていらっしゃるのですが、私は、その落ち着いた状態にするには、その人に先ほど述べたような快の体験がないといけないんじゃないかという感じがしています。 一方で間接音響設計だからそうなのか、流している自然音の内容に左右されるのか、というようなことも気になったりしています。この柏の葉総合歯科の空間に一番長く居るのは、我々スタッフでして、スタッフが長時間ずっとこの閉鎖空間の中にいた時に、実際の体調の変化があるんだろうかとか、あるいは逆にもともと音がない状態で、長時間働いていても、忙しく働いていても意外と疲れが残らないという状態を見出せるのかとか、こういったことの状況をみていきたいと思っています。

●柏の葉総合歯科についてご紹介願います。

“医科に総合病院があるように、歯科にも総合歯科があってしかるべき”というのが基本の思いとしてあります。
改めて総合歯科というものが、我々にとって、患者さんにとってどういうものであるかということを私なりに規定しなおして、作り上げたのがこの柏の葉総合歯科です。
医科は、「かかりつけ医院」「市民病院」「総合病院」「大学病院」とありますが、歯科は「かかりつけ医院」と「大学病院」とがある状況です。そこで、これまでになかった「市民病院」「総合病院」の位置づけとなるような歯科医院を目指して設立しました。この総合歯科を設立したいと強く思ったきっかけは、自分自身の過去を含め歯科医院の在り方がバラバラになっていると感じたからです。バラバラに点在する「かかりつけ歯科医院」毎のマンパワーで治療するだけでなく、もっとネットワーク、チームワーク医療を実施していくというのが、今の医療の先端の流れなのに、歯科ではなかなかそうなっていない。歯科医師は必要で、せっかく10万人の歯科医師が集まったのに、皆すべて「かかりつけ歯科医院」という形でバラバラになっていくのを食い止めたかったというのがあります。個人歯科医院が多すぎるといわれてしまう昨今の構造に疑問をいただき改善できることを試みたという感じです。

私が描くチーム医療を考えた時、高齢者を基軸にした日本の街づくりは高齢者を中心としたホスピタウンという病院中心の病院城下町と、ヘルスタウンという健康で歯科医院中心とした城下町の2つができると思っています。前者は、中心に病院を据えてその周りに介護施設とかそれぞれの住居が建設されていくイメージで、後者は歯科の総合病院が中心にあって、そこに付随した内科とか診療科があるというイメージです。65歳以下あるいは健康な74歳以下の人々を対象に考えています。彼らは総合病院には普段いかないわけですから、かかりつけ医院があればいいのです。このホスピタウンとヘルスタウンがある一定の割合で各都道府県に立ち上げられていくというのが、これからの歯科を含めた医療のあり方だと思っています。

■インタビュー後記■

歯科から始まる健康な街づくりをという未来の歯科医療の在り方に大きなビジョンとパッションをもたれて診療されている康本先生。これまでに存在しなかった総合病院と同じ位置づけの「総合歯科」という新しい歯科医院創りを実現された先生に尊敬の念を隠せません。そして、康本先生の歯科医療に対する姿勢・想いに賛同される歯科医師の先生方が多くいらっしゃるのは、一般市民にとって未来に向けた希望です。患者さんの立場を考え、さらに働く歯科医院のスタッフへ思いから、そして健康に対する真摯な考え方から、柏の葉総合歯科にKooNeを導入いただけたことにお礼申し上げます。

Interviewer:JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント エンタテインメント・ラボ 岡崎早苗