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CEOメッセージ



2024年9月27日更新


「感動と安心を世界の人々へ」たくましく、したたかなエクセレント・カンパニーへの飛躍に向けて

確かな実績を残した2024年3月期決算


経営基盤を確固たるものにするための次の一手となる中期経営計画「VISION2025」の要件として、株主・投資者の皆さまと目線を合わせ、外部からの視座を意識した経営を推進することを、まず主眼としました。そして資本市場からの要請を正面から受け止め、企業価値の最大化に向けて、事業ポートフォリオとキャピタル・アロケーションの最適化を図るとともに、サステナビリティ戦略を大きな柱として盛り込むこととしました。

結果として2024年3月期は、成長ドライバーとして位置付けた無線システム事業が年度を通して好調を維持し、全社を牽引してくれました。またM&T分野の海外OEM事業も堅調に推移したことから、全社として前期比で増収となり、本業の稼ぎを示す事業利益は大幅な増益となりました。これは、2008年の経営統合以降で最高益にあたります。

業績の向上と期中に実施した機動的な株主還元策の効果もあり、中期経営計画の初年度ではありましたが、目標を大幅に上回る実績をあげることができました。

当社が訴えてきた事業ポートフォリオ再定義の考え方や、将来へ向けた成長事業構想に対して、株主・投資者の皆さまの評価が確実に表出した結果だと思っています。


「VISION2025」主要な経営目標の進捗状況

就任後の試練で培った危機管理と経営基盤の強化


2019年にCEOに就任しましたが、思いも寄らぬCOVID-19の影響を受け、経営統合以来最大の試練の年になると覚悟して、緊急対策プロジェクトを立ち上げました。何よりもまず、投資および経費の凍結あるいは大幅な縮減に手をつけました。会社の非常時には、手元流動性を高めておくことが“経営の鉄則”です。主眼となるのはキャッシュ・アウトの徹底抑制であり、グループ全体で取り組むことを何よりも最優先事項として強力に推進しました。

その後、断続的に起こった各国都市のロックダウンや半導体不足によるサプライチェーン、ロジスティクスの混乱に対しても、在庫に余裕を持つこと(=過剰仕入れ)には一旦決別し、極限まで製品在庫を絞った上で、事業を回すことを徹底しました。これにより、全社でキャッシュ・フローを徹底的に改善しました。また、在庫を過剰に保有しないことにより、廃棄ロスの大幅削減や未実現利益の排除、回転率の上昇など、“引き算経営=持たざる経営”の実践にもなったのです。

 

この全社横断の徹底的な緊急対策プロジェクト活動を通じて、『固定費・変動費の見える化』が末端まで一気に進みました。危機的な状況下において、会社全体の根幹となる経営数値は、各部門の損益分岐点のみならず、ムダや暗黙知、そして異常値までもが『見える化』され、足元の経営基盤の強化につながったのです。

振り返ってみると、急激な外圧と変化に対応すべく困難な決断を下したことで、組織全体に危機感、緊張感が生まれ、過去のしがらみと決別することができたことは、当社にとって大きな転機となったと言えます。

そして確信したことは、“難局を乗り越えて変革を成し得た企業集団は必ず強くなっていく”ということと、“強い会社でなければ会社はサステナブルでない”ということです。

持続可能な利益を出す力
~確かな実績と未来への期待~


株価は資本市場からの評価であり、社長CEOの通信簿です。資本主義の世界で仕事をしている以上、資本市場を否定できません。『経営者は株価を直視せよ』というメッセージは強く受け止めていましたし、小手先のIRや表面的な繕いでは株価は上がらないことも痛感していました。

“強い者が勝つのではなく、勝った者が強い”(フランツ・ベッケンバウアー:独)という言葉があります。

社長CEOの最大のミッションは、『結果を出し続けること』の一点に尽きると思っています。株主・投資者の皆さまは会社の未来に期待して投資を行いますが、その『未来への期待』はあくまでも現在の事業をベースとして積み上げ、そして築き上げた『過去』や『現在』の延長線として位置する『未来』があるからこそ、です。つまり、しっかりと結果を出してこそ『未来』が評価対象になり得るのです。足元がぐらついている所に丈夫な家が建つことは絶対にないのは明白です。

『未来への期待』にとって、過去の実績が重要であると同時に、将来の利益成長の蓋然性、説得性、成長率は重要なファクターです。会社の過去から将来にわたる『総合的な魅力度』が、その企業の評価に表れてきます。企業価値の増大は、結果として起こるべき『良い状態』であり、長期的に見れば、株価だけが実態から遊離していくことはあり得ません。要するに持続可能な利益を出す力が重要なのです。

遠い未来の会社の姿を見据えた時、バランスシートの観点から意識する『超長期』と、目の前の数値をとことん追いかける損益計算書の観点から経営を意識する『超短期』という、相反する二つに同時にこだわって経営を実践することで、企業の永続性が生まれると私は考えています。


資本コストを意識した経営
~ROIC経営の浸透を図る~


全社の経営のかじ取りを担う立場で、最も重要な自分の役割は、中長期の持続的な成長に向けて、グループ全社の視座で経営資源を最適配分することであると確信しています。当社では、ROE(自己資本利益率)に加えてROIC(投下資本利益率)を事業収益および資本効率の点で重要なKPIとし、資源配分の重要なツールとして活用しています。

JVCケンウッドグループにおけるROIC経営のメリットは、多岐にわたる事業単位ごとの資本運用が管理でき、税引後営業利益という事業の実力ベースの稼ぐ力を計ることができること。そしてROICがWACC(加重平均資本コスト)を上回っているか否かを検証することにより、資本コストを意識した経営を徹底できることです。

※6.35%(2024年3月末基準)

 

全社に『ROIC経営』を浸透させるには、社員一人一人がROICにおける分母(投下資本)と分子(稼ぎ)の構造を理解し、収益性を上げるにはこの関係性をどのようにすれば最適化できるのか、を実際に自分ごととして考えて行動することが大切です。例えば、分母となる投下資本については、資本効率性を考えた時にムダな資産や設備、過剰な在庫はないか?それらがキャッシュに変わるまでの時間軸はどうなのか?今、当たり前に営んでいる仕事は企業価値の向上に果たして寄与しているのか?

収益性と効率性の変動要因となる原価や人件費・販促費など、つまりROICを構成する要素を可視化することにより、自分たちは顧客視点で仕事をしているか、を意識することになります。技術や事業の『新陳代謝』を促し、資本効率性を計って稼ぐ力を向上させ、新たな価値を生み出していくことがROIC経営の最大の効能と考えています。


事業ポートフォリオの再定義に基づき、強い事業に経営資源をシフト


事業ポートフォリオの考え方は、端的に言うと成算のない事業には手を出さず、強い分野にリソースを集中することで成長の可能性を高めていくことであると考えます。

無線システム事業を中長期の利益創出ドライバーとして位置付けているのは、ROIC経営の観点から非常に高い資本投下利益率を確保しているからです。

まず、業務用無線業界の競争構造が、持続的な収益力の創出に影響しています。マイケル・ポーターは、5つの要素(5 forces)が競争戦略論において中長期的な収益性に大きな影響を及ぼすと定義していますが、当社の無線システム事業は、業界のプレーヤーが限定されていること、新規参入障壁が高いこと、代替品がないことなど、多くの点で際立った競争優位性があると言えます。

また、業務用無線システム市場は安定した成長基調を示しています。今、世界各国では、防災や危機管理への対応機運が急速に高まっており、グローバルでの業務用無線需要は拡大傾向にあります。さらに北米では、アナログ無線からデジタル無線への切り替えも、需要拡大を後押ししています。

 

当社の無線システム事業は、1980年代から業務用無線市場に参入し、40年以上の確固たる実績と信頼を確保できています。その長期間にわたり高品質・高機能・顧客最適のカスタマイズに対応してきたことで、顧客からの高いレピュテーション(評価)を得ていることが、当社の最大の強みです。

2023年1月から市場導入したトライバンド対応無線機「VP8000」の機能性と品質レベルは、ディーラーや顧客から業界トップクラスの高評価をいただいており、北米公共安全市場における入札案件の獲得数が増加しています。さらに、今期は社内異動と新規採用合わせて無線システム事業で約100名の人員増強を行うことで、製品ラインナップや営業力などの強化を図っています。

一方で、課題事業であったヘルスケア事業における新医療事業の譲渡や、業務用ビデオカメラの事業終息の意思決定も同時期に行いました。このようにメリハリをつけながら事業ポートフォリオの変革を加速し、経営資源の適切な配分を行うことによって、JVCケンウッドグループの本源的競争力の強化を図ってまいります。

※5 forces:業界プレーヤーの競争、新規参入障壁、代替品の脅威、買い手の交渉力、売り手の交渉力


価値創造の拠点 VCS創設に期待するもの
~創造躍動の場へ~


中長期での価値創造を具現化するために、今年、本社・横浜事業所地区に新ビルを建設しました。これまで拠点が分散していた事業部門や技術部門などを集約し、ハイブリッドワークを実現するオフィス環境を整備したValue Creation Square(VCS)が完成します。

今回、VCSへの人員集結によりエンジニアの流動性を高め、異なる経験値や知性をもつ技術者同士がお互いに建設的な意見を出し合い、協力して高い目標に向かって進んでいきます。また場合によっては、外部の異業種プレーヤーたちとの交流の中で、お互いに異なる主観を共有し、客観化することによって新たな発想が生まれてくるはずです。

創造とは一人だけでは困難であり、人と人との関係性の中で作る大変『泥くさいアウトカム』と言えるのではないでしょうか。現場に足を運び、市場の声に耳を傾け、『顧客起点のデザイン経営』を実践することが重要です。複雑な事象・ことがらを昇華させて、より高い次元、新天地に進めることで、イノベーションのきっかけを掴めるような『創造躍動の場』にしていきたいと思います。

ガバナンスのさらなる高度化


当社は2015年よりガバナンス改革を実行し、指名・報酬諮問委員会を発足させて以来、社外取締役が取締役会議長を務めています。

ガバナンスが良くなると経営が安定し、経営力が向上するという実感があります。そして、企業変革のリード役は取締役会であると確信しています。

毎年実施している実効性評価をもとに課題を洗い出し、取締役会の実効性のあくなき向上を目指していますが、ガバナンスのあり方に「ゴール」は存在しません。多岐にわたる当社の経営課題を見つめながら、潜在するリスクの発見やイノベーションの機会創出など、常に外部環境の変化を捉えながら、適切かつ臨機応変に会社の持続的な成長に向けて舵をとって、ガバナンス変革を果敢に推し進めていく必要があります。

 

取締役会で最も重要な要件の一つは、議題(アジェンダ)の設定です。より戦略的かつ本質的な議論を深めていくためにも、『JVCケンウッドにとって重要なアジェンダは何か』『JVCケンウッドの将来にとって本当に重要なテーマは何か』という視点で、議論の俎上に載せていかなければなりません。ともすれば個別案件のみに多くの時間を割き、本当に重要な経営テーマに時間を取れず後回しになってしまいがちです。私自身もCEOとしてアジェンダ設定には深く関与し、また企業改革のトリガーとすべく、ボードメンバーの知見を広くいただきながら、当社の競争優位性を構築していきたいと考えています。

経営陣とボードとの関係性は、執行と監督という一律に捉えられるものではありません。適度な緊張関係を保ちながら、JVCケンウッドグループが抱える経営課題や、未来の姿はどうあるべきかについて建設的かつオープンな討議を深耕し、今後とも実効性を一段と高めてガバナンスのさらなる高度化を目指していきます。

活気あふれる企業風土の醸成


NHKのプロジェクトXという番組の再放送でも話題となった、当時の日本ビクターを題材とした『窓際族が世界規格を作った~VHS・執念の逆転劇~』は、閑職に追いやられた技術者たちが会社の壁と闘い続け、日本のものづくりの力を世界に知らしめたことで、多くの人を惹きつけました。今でもその快挙は語り草となっています。

時代は令和となり、「企業戦士」という言葉は使いにくい世になってきました。しかしながら、日本の英知を結集させて世界に挑んだ“ 熱意と負けず魂”とその偉業は、幾多の『地上の星』によって成し遂げられた栄光であったことを、わたしたちは忘れてはなりません。技術開発だけでなく、生産や販売の現場で働く末端の従業員の力が、世界レベルで見ても驚くほど強かったのです。

JVCケンウッドグループには長い歴史の中で培われた音と映像、無線に関する貴重な技術資産、知的財産があります。

『変革と成長』の壁は、戦略立案に難しさがあるのではなく、何としてもやり遂げる力強い実行力が担保されなければなりません。大志を抱き、全力でぶつかり突破することで、新しい道が切り拓けると信じています。

「感動と安心を世界の人々へ」という企業理念の下で、現場へ足を運び、真のニーズを汲み取り、徹底的な差別化を図ることで、夢を現実に引き寄せていきます。そして持続的なイノベーションの創出が可能となるような、活気あふれるイキイキとした企業風土を醸成していきたいと思います。